社会的、政治的関心の高さを物語る、五月女さんのこのコメント(表題)とほぼ時期を同じくして制作された1つの作品があります。
「クリスタル・サイレンス」(1979−1980/宇都宮市美術館所蔵)という作品です。
五月女さんの数ある作品の中では、明らかに異彩をはなつ作風で描かれたその絵画について、その制作意図を、五月女さんは後にこう説明しています。
「政治をはじめ、社会的な多くの諸問題に大変怒りを感じていた時でしたので、特に透明で鮮明で静寂な世界を求めた。しかしそれは社会的な喧騒から逃げるというのではなく、そんな中でも緊張して考えるという心の状態です。」
「そのような気持ちの表現の題材として、鏡の上に重たい石を置き、まるっきり質の違うもの同士を組み合わせ、水面に浮かぶ重さのない石にしてしまいました。ガムテープは日常性を象徴しています。やはり鏡ともしれず、水面ともしれないものにガムテープを貼り付けることにより、その意外な面を効果として狙っております」と。
そしてまた取材されたある記事のなかでは、「鏡に映った虚像と実像の間に浮遊する自分」を描き出すという問題提起の作品であると説明しています。
約20年後。
「最新の画集」を見てみると、巻末にある作品集のなかに、他の作品とは異なる画風の作品を見つけました。制作されたのは2000年。

Flottement,2000年,黒鉛,90x70p
五月女さんは封印を解いたかのように20年ぶりに再び「石」を描きました。
「鎖」に繋がっているような、繋がっていないような「石」が、やはり水面とも鏡ともしれないものに反射している作品。20年前に描いた「石」とは明らかに違うものです。
五月女さんの社会に対する問題意識が、再び訴えかけてくるような作品です。「Flottement」をフランス語の辞書で調べると「浮遊」とでています。
「鏡に映った虚像と実像の間に浮遊する自分」を描き出すという問題提起の作品である。と説明した1980年の「石」の作品と、2000年に描かれた「石」。
もしかすると、この「石」は、「五月女さん自身の自画像」とも云えるのかもしれません・・・・・。
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